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Webマガジン Vol.17 - Jan., 2016

Column:分光によるイメージング技術:「マルチスペクトル」・「ハイパースペクトル」とは

さまざまな市場・分野での応用が可能-赤外線分光技術

この世に存在するあらゆる有機化合物は、その物質を特性付ける原子団を持っており、官能基と呼ばれています。この官能基は振動などの赤外吸収帯を持っており、物質の定性(同定・識別)や濃度の定量に用いられます。赤外吸収帯は、物質固有のものですので、一般的に「指紋領域」として知られており、研究や解析用(例:FT-IR)から産業用(例:水分、膜厚計)まで、広い分野で応用されています。

  太陽光に代表される「光」は広い波長帯域(ブロードバンド)であるため、様々な波長帯が含まれています。指紋領域を用いた物性の定性や定量を行うためには、特定の光(波長)を取り出す必要があり、これを「分光」と呼びます。プリズムを用いた分光が良く知られていると思います。分光技術は様々な市場・分野への応用が可能となっていますが、要求される精度や、サイズ、波長の数、スピードなどにより、どの分光技術が最適であるか検討されています。今回は、分光技術として、マルチスペクトルとハイパースペクトルの2つに関して説明します。なお、英語で分光はスペクトルと呼ばれ、複数形は『スペクトラル』になりますが、ここでは一般的に使用されるスペクトルで記載させていただきます。

マルチスペクトルとは

  過去より良く使用されている分光技術としてマルチスペクトルがあります。イメージングを行うものはマルチスペクトルイメージング(MSI)として知られています。マルチスペクトルとは、複数のスペクトルバンド(分光帯)を意味し、一度の数十のスペクトルバンド(一般的に10以下)を使用して取得された画像はMSIと呼ばれています。

■ MSI 主な分光手法

  MSIを実現する手法として知られているのが、波長フィルタを搭載したフィルタホイールを用いた分光方法であり、観測対象となる物質が既知の場合に非常に有利な方法になります。 当社が販売しているテロップス(Telops)社赤外線カメラ(中赤外線、長赤外線)では、特定のガス(COやCO2、H2O)の分析のために、この技術を採用しています。しかしフィルタを回転させる必要がある為に、高速回転を行う事でリアルタイム計測は可能になりますが、いわゆる一般的なカメラのようなスナップショット型にはなりません。(右図は、テロップス(Telops)社製品におけるMSIカメラの内部構造図です)

  また、使用する波長を変更したい場合は、フィルタを変更する必要があるので、構造上多くのフィルタを搭載する事が難しいという点が難点になります。一方で既知の物質状況の計測を行う場合にはフィルタの変更が必要ないため、イメージング以外では、当社取扱いのNDCテクノロジーズ社の水分計や膜厚計にこのフィルタホイール式分光技術が採用されており長い実績を誇っております。最近は、イメージ分光チップとして、CMOS上にモザイクタイル/分光処理を行った製品も出てきており、更なる小型化・低価格化が進んでいる状況です。


  テロップス(Telops)社MS-IRマルチスペクトル
  カメラの内部に搭載されたフィルタホイール図

ハイパースペクトルとは

  近年増えてきている分光技術としてハイパースペクトルがあります。イメージングを行うものはハイパースペクトルイメージング(HSI)として知られています。ハイパースペクトルとは、数百のスペクトルバンド(分光帯)を意味し、一度に数百のスペクトルバンド(一般的に100以上)を使用して取得された画像は、HSIと呼ばれています。

■ HSI 主な分光手法

① プッシュブルーム方式
  MSIを実現する手法として知られているのが、回折格子(グレーチング)を用いた分光方法です。昔からよく知られている方法で、最近は微細加工技術の向上により、高い分解能を提供できる製品が出てきています。 データの取得方法としては、プッシュブルーム式と呼ばれているものが多く採用されていて、ラインセンサでX方向(横)とλ方向(波長)を取得した後、対象物またはカメラそのものをY方向(縦)にスキャニングする事により、3次元の情報(Cubeとも呼ばれます)を取得します。簡単にハイパースペクトル情報が取得できるので多くの企業で採用されています。しかし、スキャニングのためにある一定の時間が必要な事と対象物またはカメラを一定の速度で動かさなければいけない事などの計測上の制限が発生してしまいます。

  当社が販売しているスペシム(Specim)社ハイパースペクトラルイメージングシステムSisuCHEMAは、プッシュブルーム方式を採用し、コンベアを使用して測定対象物を一定の速度で動かします。計測できる波長範囲は、可視領域である400nmから2500nmです。リモートセンシング(空撮)にも対応しています。


  ①一般的なHSIカメラの構造イメージ


  ②カメラが対象物を測定した時の可視イメージ
  (縦Y × 横Xの一般的な二次元画像)


  ③カメラが対象物を測定した時の赤外線イメージ
  (波長λ× 横Xの二次元画像)

  


  ④横Xのライン上における波長λ分の1枚分の
  画像を取得


  ⑤対象物またはカメラが縦Y方向に動くことにより、
  横Xのライン上における波長λを縦Y枚分取得
  (3次元画像)


  ⑥横Xの情報を縦Y方向に切り抜いた場合のイメージ
  (特定波長λにおける縦Y × 横X 一枚分の画像)


  ⑦各画素の波長情報を読み出す


  ⑧読み出した波長情報の変化具合を色付けし、
  可視では難しい定性・定量を実現

②  FT-IR方式
  HSIを実現する2つ目の手法として知られているのがFT-IR技術を駆使した分光方法です。卓上型FT-IR解析装置と同様に、カメラに入射される赤外線光をマイケルソン干渉計で分光します。検出器としてフォーカルプレーンアレイ(FPA:2次元センサ)を使用する事で、X方向とY方向の2次元画像に対する各ピクセルのλ情報(波長情報)を取得する事が可能となり、対象物やカメラ本体を動かす必要はまったくありません。

  当社が販売しているテロップス(Telops)社のハイパースペクトルカメラ、Hyper-Camシリーズは、優れたFT-IR技術を駆使して市販品として最高のスペクトル分解能である0.25cm-1を実現しています。計測できる波長範囲は、2500nmから最大11,800nmです。リモートセンシング(空撮)にも対応しております。


  Hyper-Camシリーズ


  リモートセンシング(空撮)例

マルチスペクトルやハイパースペクトルでの具体的な応用例

③ FPI方式
  HSIを実現する3つ目の手法として知られているのがFPI(ファブリペロー干渉計)技術を使用した分光方法です。FPIを用いて、特定の波長分光を行いますが、最近はMEMS技術により、より小型で分解能の高い製品が出てきています。上記で説明したFT-IR方式HSIと同様に、検出器としてフォーカルプレーンアレイを使用する事で、X方向とY方向の2次元画像に対する各ピクセルのλ情報を取得する事が可能であり、スナップショットでのハイパースペクトル情報の取得も可能になります。

  当社が販売しているリコラ(Rikola)社の小型ハイパースペクトルカメラは、上述の通り“面”で画像を取得し、検出器で撮像する前に、画像フィルタを通しています。このフィルタにFPI技術を使用する事で、30fpsの動画撮影を可能にしております。


左:ファブリペロー原理   右:リコラ(Rikola)社小型ハイパースペクトルカメラ

④ その他方式

  HSIを実現するその他の方式としては、AOTF(音響光学チューナブルフィルター)やLCTF(液晶チューナブルフィルター)などがあります。分光製品の小型化を図る点では、これら技術は非常に有能ですが、分解能の面や対応波長並び価格の面で、まだまだ課題があります。ただし、検出器としてフォーカルプレーンアレイを使用する事で、X方向とY方向の2次元画像に対する各ピクセルのλ情報(波長情報)を取得する事が可能であり、対象物を動かす必要もないので、卓上型の製品(顕微鏡や分析器)に採用されつつあります。

マルチスペクトルやハイパースペクトルでの具体的な応用例

  より多くの情報が取得できるマルチスペクトルやハイパースペクトル技術により、環境リサーチ/モニタリング、植生調査、地質/鉱物調査、選別/リサイクル、金属産業、医薬品分野、食品産業など色々な応用例が考えられています。以下に具体例を紹介します。

① 医薬品分野
薬品の均一性やタブレット錠の特定の微粒子サイズ、分布


  タブレット錠


成分

② 農業分野
種や植物の識別、疫病調査、含有成分の評価及び選別


  (図はCanadian Grain Research Laboratoryより)

③ 地質/鉱物調査
 


  左から「VNIR(可視・近赤外)画像」、「SWIR(短波赤外)による鉱物マップ」、「LWIR(長波赤外)による鉱物マップ」

④ 食品分野
脂質、プロテイン、水分などの分布、定量(CCFRA, Campden, UK)

⑤ 産業分野
半導体、ミラーなどの薄膜測定、厚み分布(middleton research)、色差測定(Coltex system by Iris DP)

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