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Webマガジン Vol.14 - Mar., 2015

熱物性-熱伝導率と物質・材料

実は身近な熱物性

  普段、熱物性を気にしたことはありますか?恐らくほとんどの方は、熱物性なんてよくわからないし知らなくても関係ないよ、という回答だと思います。実は知らず知らずのうちに私たちは暮らしの中で様々な熱物性値に関わっているのです。外断熱の快適な住居で朝を迎え、熱伝導の工夫を凝らした炊飯器でおいしいご飯が出来上がり、最新ニュースをチェックするスマートフォンやパソコンには高度な熱設計が施されています。帰宅後には冷めにくい浴槽で疲れを癒やして一日が終わります。このように、多くの身近な製品には、熱を逃がす、貯める、止める、流すといった工夫が行われているのです。

  いわゆる熱物性の中には、熱エネルギーに関係するいくつかの物性値と特性値が含まれます。物性値として代表的なものは、熱伝導率比熱容量熱拡散率の3つです。さらに、温度に依存し長さ・体積の変化を表す熱膨張率も熱物性値の一つです。一方特性値とは材料の大きさや対流の影響などを含んだ実効的なエネルギー移動を示すときに利用される値で、熱伝達率や熱抵抗値、熱貫入率などがあります。ここでは、物質・材料の中を流れる熱エネルギー移動の大小を表す物性値である熱伝導率と物質・材料の関係に焦点を絞ってお話したいと思います。

高い熱伝導率、低い熱伝導率

  熱伝導が高いということは、物質の中に熱エネルギーを流しやすいことを表します。また同時に温度が伝わる速さ(熱拡散率)も一般的に大きくなります。図1は、元素の熱伝導率(室温)を原子番号順に並べて示したものです。赤い丸のプロットは金属元素、青い丸は非金属元素です。非金属元素のうち熱伝導率がほぼ0の元素は気体です。一口に金属といっても熱伝導率には大きな幅があることがわかります。熱伝導率が高い順から、Ag(銀)、Cu(銅)、Au(金)であり、これらは400 W/(mK)前後の熱伝導率を持ちます。一方、Mn(マンガン)は7.8 W/(mK)、Bi(ビスマス)は8 W/(mK)、レアアースとして知られるランタノイド(原子番号57~71)はYb(イッテルビウム)を除いて20 W/(mK)を越えません。


図1 元素の熱伝導率を原子番号順に並べた図
熱伝導率の高い元素は金属で占められている。

  このような熱伝導率の違いは何が原因でしょうか?図2は、横軸に電気伝導率を取って元素の熱伝導率をプロットし直しました。金属の熱伝導率はきれいな直線上に並ぶことがわかります。このことから、電気の良導体は熱の良導体であるという普遍的な関係が導かれます。この関係は、Wiedemann-Franz則として知られており、金属中で熱エネルギーを伝搬するものは自由電子であることを示しています。


図2
元素の熱伝導率を電気伝導率に対して並べると、金属元素はある直線状に        
並ぶことがわかる。すなわち電気伝導率が高いほど、熱伝導率も高い関係にある。

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高い熱伝導率、低い熱伝導率

  それでは電気を流さない絶縁体には自由電子がいないので低い熱伝導率になるのでしょうか?図3の写真は、合成ダイヤモンドの薄板で氷を切断している様子です。ダイヤモンドは地球上でもっとも熱伝導率が高い物質として知られており、その値はおよそ2000 W/mK以上あります。すなわちダイヤモンドは銅の約5倍の熱エネルギーを流すことができるのです。写真ではダイヤモンド板を持った指先から熱エネルギーが氷に瞬時に伝わって氷の融解熱を供給するので、氷をまるでバターを切るように切断することが可能です。ダイヤモンドの高い熱伝導率の要因は、強固な結晶格子を持つために格子振動の伝搬速度が大きいことによります。熱・温度とは原子(格子点)の振動を統計的に表したものなので、格子振動の伝搬速度は熱伝導率と比例関係にあります。先に述べた金属においても、熱エネルギーの媒体は自由電子ですが、同時に金属の結晶格子の熱振動とは平衡状態になっています。金属は柔らかい物質なので格子振動による熱伝導の割合は小さいですが0ではありません。

  このように物質の熱伝導の大小は、1.電気をどれだけ通しやすいか、2.結晶構造がどれだけ強固であるか、の2点でおおよそ理解することができます。


図3 薄い人工ダイヤモンド板を氷に突き刺した様子
         高い熱伝導率を持つダイヤモンドは指先の熱を瞬時に氷に伝えるため、氷をバターのように切ることができる。

材料として必要な熱物性

  これまでに物質と熱伝導率の関係をお話しましたが、実際の工業材料として必要な熱物性を得るためには様々な技術が使われています。近年はエネルギーの効率利用が強く意識されており、そこでは高熱伝導と断熱の両方向で技術革新が求められています。

  例えばCPUなどの電子回路とヒートシンクの間の凹凸を埋めて密着性を向上することで排熱を向上させる熱伝導グリースやシート材料にはできるだけ熱伝導性のよい材料が必要です。前項で述べたように、シート材のように柔らかい物質は本質的に熱伝導率が低いため、高熱伝導率のフィラー(図4)を混ぜて用いられます。接触面に関わる機能をマトリックス基材が担い、熱伝導の機能をフィラーに分担させることで、材料として良好な熱伝導特性を得る工夫がなされています。


図4 窒化ホウ素でできた2種類の熱伝導フィラー
窒化ホウ素の熱伝導率の理論値は300 W/(mK)を越え粒状にした
材料を樹脂シート材等に混ぜて電子回路の排熱用に用いられる。

  一方、住戸では、部屋内を暖めるために生み出した熱を逃がさないことや夏場の外気からの熱の侵入を防ぐために断熱材は必須です。熱伝導は振動のエネルギーなので、熱伝導の媒体が気体や真空であれば効率的な断熱を行うことができます。図5の写真は、断熱材のグラスファイバーボードの例です。低密度のグラスファイバー中に含まれる空気により断熱し、かつボード内の空気の移動を低減することで物質移動(対流)による熱移動も抑制することができます。このボードは米国の標準研(National Institute of Standards and Technology)で頒布されている標準物質(SRM1450d)であり、熱伝導率は0.03 W/(mK)です。理科年表によれば空気の熱伝導率は0℃において0.024 W/(mK)ですから、ほぼ空気に匹敵する断熱性能を持ちます。


  図5 グラスファイバー製の断熱材。
熱の遮断は家屋のエネルギー利用の効率化に欠かすことができない。

正確な熱物性評価の必要性

  ご紹介してきたように、私たちの生活には様々な材料の熱物性が工夫されて用いられています。このときに、誤った材料の熱物性値を用いてしまうと、製品性能が想定通りに出なかったり、予期せぬ故障の原因になることがあります。正確な熱伝導率や熱拡散率、比熱容量の評価は大変重要ですが、正しい手順を守り規定に準拠した測定が必要です。私たちの所属する産業技術総合研究所計測標準研究部門材料物性科熱物性標準研究室では、主に固体・薄膜材料の熱物性計測技術(熱膨張率、熱伝導率、熱拡散率、比熱容量)や、測定手法の校正に用いることができる各種標準物質の開発を行っています。また、熱物性データベースでは1万件を超える熱物性値を収録し、ウェブブラウザからデータやグラフを見ることができます。固体熱物性クラブという活動を通じて、計測に関わる技術的なご質問やご相談にも随時承っていますので、ご興味を持たれましたら下記のホームページをぜひご覧ください。

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