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Webマガジン Vol.4 - May 2013

ダイヤモンド合成単結晶の応用展開とその未来

単結晶工具でなければできないアプリケーションとは

– ダイヤモンドのアプリケーションの中に昔からあるので、例えば工具があると思うのですが、単結晶の工具でなければできないアプリケーションというのにはどういうものがあるのでしょうか?

【 藤森 】   初めに単結晶の工具がある程度量を使われ始めた案件の一つは、レーザープリンターの光をスィープするためのミラーを、モリブデンとかニッケル鍍金をしたものを削るんですが、それがかなり大量に使われた一番最初だったと思います。単結晶でないとミラー面が綺麗に出てこない。常識的に考えると研削したほうが綺麗になるんじゃないかと思われるんですが、それは全然違っていて研削をすると毟れるのでかえってピカッとならないわけなんです。

  最近は、金型だとかそういうものの加工なんかでも単結晶工具は、どんどん使われている。もっと歴史をたどれば単結晶のダイヤモンドを使うという意味で言うと、線引きダイス、金属線を細くするためにやっていくダイスですね、これも非常に硬い金属の場合は、ダイヤモンドを使わないと出来ない。だけど、簡単に言うけれど、穴開けてダイスの穴をきちんとした形状にするのは、ダイヤモンドの場合、逆に大変な意味がありますから、本当の意味での精度の良い線を引くことになってきたのはごく最近の話で、一番大事なのは、ICのボンディング用の金線です。あれがだんだん細くなってきて20ミクロン以下。そのぐらい細くなってくると単結晶でなければ削れない。 ところが今、もっと違うコンセプトが出てきて、単結晶でなくて線引きしようという話がある。けれども、途中段階としては、単結晶でないと絶対に20ミクロン以下の細い金線は作れないというのが市場としてずっとあった。

 
 単結晶の応用展開

– そこに使われているのは、どうやって作った単結晶ダイヤモンドなのでしょうか?

【 藤森 】   一番最初は、勿論天然。途中から超高圧ので、ずっと使われているわけです。超高圧のほうが、安定性がありますからね。

【 小出 】  最近出たスマートフォンの例でいうと、筐体(きょうたい)ボディがアルミニウムで出来ている。アルミニウムで出来ている金属を磨くときに、最後にダイヤモンドで仕上げる一番の特徴は何ですか?

【 藤森 】  簡単にピカッと出来る。非常に早く加工が出来ますね。安定した状態で。アトミックレベルに近いところぐらいまで単結晶工具っていうのは仕上げますから。

【 小出 】  私の質問になってしまいますけれど、それは日本の匠技術かどうかです。昔は人間国宝のような技術はダメで、工場で誰でも出来るような技術にまで落とし込まなければいけないと言われていました。でも今は、総合科学技術会議議員の方も仰っているのですが、第三国に簡単に真似されない、追随を許さない日本の匠技術を生み出さなければいけない。

【 藤森 】   もちろん、日本はそういう工具を作る技術は優れていますが、ただ、間違えていけないのは、そのスマートフォンの話は全然数が大きいわけ。そんなことを気にして作っていたらはっきりいって作れない。そういうレベルをはるかに超えているんです。要するに桁が違う。だからもうこういうのを作るためには自動機で作るつもりがないと本当をいうとダメなんです。一足飛びにそういう段階に入っちゃっているという感じですね。

– CFRP(炭素繊維強化プラスチック-Carbon Fiber Reinforced Plastics)の加工にはダイヤモンドが向いているとか、必ずしも単結晶ではないかもしれませんが、それはあるんですね?

【 藤森 】  それはまあ、ある。ボーイング787で有名な話になった例ですよね。

【 小出 】  CFRP自身が炭素繊維、これも日本が世界を席巻している材料で、その加工も日本が席巻しています。最近、真似できない新材料として良く取り上げられるサクセスストリーの一つです。

    「CFRP、これも日本が世界を席巻している材料で、
  その加工も日本が席巻しています。」
 

【 藤森 】  自動車がCFRPに変わる可能性が十分ありますから、技術としては大事ですよね。今、回転工具系がほとんどなわけですね、エンドミルとかドリルとかに付けているんですけれども。これはコーンズさんが扱っておられるフィラメントCVDで付けるのが一番合理的で今のところこの方法になかなか勝てるものがないと僕は思ってるんです。CVDの技術としてダイヤモンドが出て行く用途としては一番多い、売上から考えても一番多いと言ってもいいと思いますね。

  でも、切削工具としてダイヤモンドの一番大きな欠点は、鋼が削れないわけです。今、世の中の削っているものの98%以上が鋼ですから、その一番大きなマーケットに入ることがなかなか難しい。超硬合金の切削工具とかとは、やはりそういう点が違う。ただ極一部ですけれどもバリ取りとかには、ダイヤモンド単結晶が使われる用途もあります。

【 小出 】    鋼、鉄ですね。その使えない理由は、鉄と炭素が反応してしまうということですね。

【 藤森 】   反応の問題と耐熱性の問題が少しあります。
(編集 注:鋼を削るときに発生する刃先の温度は800度以上の高温となるため、鉄とダイヤモンドの炭素が反応してダイヤモンドが侵食されてしまう。)

ダイヤモンドは非常にオープンな材料である

– 放熱材としてのダイヤモンドは、どういうふうに使われているのでしょうか?

【 藤森 】   ヒートシンクと言われているものです。ダイヤモンドは2000W/mKありますから、最も大きな物質だということは間違いない。こういうものに対抗する材料って言うのは、アルミナイトライドとかSi、シリコンとか、Cu-W(銅タングステン)といった材料です。

  ダイヤモンドの一番の問題は、熱膨張係数がかなり低い、シリコンとかガリウム砒素とかそういうデバイスの材料と比べると小さいという問題があって、この小さいか、大きいかというところは結構クリティカルなところがあって、半導体材料側に圧縮が掛かるか引張りが掛かるかという問題がある。今の場合ダイヤモンドは、半導体材料に引っ張りが掛かっちゃうという問題点があるわけです。こういうことから考えると使える大きさが限定されるということがあるけれども、やっぱりこの熱伝導率が高いということで使いたいというリクエストが結構多いわけですよ。

   一番の問題点は、そこへ来るとお値段ということになる。それを克服するためのコンセプトを我々としてはいろいろと考えているというわけです。我々が今やっているのは、割りと薄いダイヤモンドをそういうものに使えないかということで50ミクロンのダイヤモンドを使っても十分なヒートシンク効果が出るんじゃないかと思っているんです。シュミレーションするとダイヤモンドって、ほとんど横方向の熱分布を持たない。ダイヤ板のある場所をちょっと加熱すると全部が同じ温度になってしまうというくらい優れているわけですよね。

  もう一つオプションがあってカーボン12だけにすると、更に1.5倍くらいに熱伝導率が上がるっていう話がある。これは小出さんのところの方が今、研究を一生懸命やっていらっしゃる。それが本当に実用化出来れば、非常に面白いことになると思います。そこまで究極のものが、次の候補としても用意されているという意味では、ダイヤモンドは非常にオープンな材料だと思います。値段を電子部品の体系に合わせるということが、まず第一になりますので、ある程度マスプロダクションに耐えられるようなコンセプトを作っていかなければならないというのが今の私の考えです。

    「ある程度マスプロダクションに耐えられるような コンセプトを
  作っていかなければならない。 」
 

– こういう放熱板みたいなもの、我々のほうもSP3社が作っている多結晶の板みたいなのを取り扱っているわけですが、他結晶に比べての単結晶のほうが更に放熱性がいいということ?

【 藤森 】  普通にいくと3倍くらい熱伝導度があると思いますね。あの多結晶で薄いのを普通に作ると単結晶に比べて4分の1くらいしか熱伝導はないと思います。それに対して我々の作っている技術は、完全な単結晶ですから2000W/mKちゃんと出るのでその分のメリットはあります。その4倍熱伝導率があるっていうことが使う側にとって本当の意味があるかどうかっていうことです。そこがもう全てですね。 値段は、多結晶のダイヤモンドに比べて4倍になるってことはないと思います。

– あ、そうか、薄くても効き目は同じくらいあるということか。

【 藤森 】  多結晶のダイヤは薄くするとどんどん熱伝導度は悪くなる。成長初期が悪いダイヤモンドしか出来ませんから薄くなればなるほどまずくなる。我々のほうはそうじゃなくて薄くなっても何も変わらない。それが大きなメリットですね。

単結晶の市場は相当大きいものになるかもしれない

– 単結晶合成ダイヤモンドのアプリケーションとしては、何がこれから一番大きくなるというふうにお考えでしょうか?

【 小出 】  私は半導体デバイス屋だから、これまで述べてきたパワーデバイス、つまりダイヤモンドがエレクトロニクス分野に入ってくことを望んでいます。ここ最近の応用分野を見ているとやっぱり工具、新材料に対する加工分野、先ほどのCFRPが代表格です。期待という面では革命的ですし、それを加工できるのはやはり単結晶ダイヤモンドしかないわけですね。ダイヤモンドの研磨が良い性能を生み出すのであれば、工具、加工の切削工具分野に市場性があるように素人目には見えます。

【 藤森 】   確かに将来的にも使われるし、トータルマーケットとしては、工具は結構あると思うのですが、我々としてはもう少しいろいろなところで使ってもらいたい気持ちが強いわけです。僕が一番期待しているのは、最終的にはデバイスを何とかしたいというのも当然あるんですけれども、光学的な用途なんかでもひょっとすると相当大きな使い方が出来る可能性があります。光学部品としてシンクロトロンのところで使っているモノクロメーターっていうのがあるんですが、これを今まだ、出せるのが住電のIIaって言われている高純度の単結晶だけしかないんです。シンクロトロンの人達は、本当は全ポートにそれを付けたいんですね。それを全部付けるとどう少なく見積もっても全世界で20億円/年くらいの市場がある。これからもっとシンクロトロンが増えていくかもしれないので、そうなるともっと話がある。

   その一つだけでもそういうことが言えるわけで、光学的なこととかは結構ありうる話ですね。さっきのヒートシンクの話もデバイスの熱管理というか、サーマルマネジメントにもダイヤモンドが、きちんと選択肢として示せるようになっていけば十分にその役に立つことがたくさん出来るんじゃないかと思っています。旧来の切削工具、ダイス、ドレッサーとか言われるような耐摩耗性を使うもの以外の用途っていうのは、意外とたくさんあって、結構早い時期にどんどんそれが結実してくるような感じがします。今が丁度過渡期かなぁと、そういう意味での新しいものが出てくるところに来ているんじゃないかと。 

  あと、ここに書いていないけれど宝石っていうのがもう一つある。そっちのほうもかなりもう世の中に出回っているという話が最近良くいろいろなところで聞えてきます。そういうことも考慮しますと、人口合成単結晶の中でも気相合成単結晶の市場というのは、相当大きいものになる可能性は既にあるのではないかと思います。僕も会社始めて3年ちょっと経ちましたんでもう一遍市場を見直さないといけないかなというふうに思っているところです。

単結晶ダイヤそのもので1ミリ以下のドリルを作る技術がある

– ダイヤモンドについて言えば、もしかしたら、今日話していないアプリケーションで何かが広がるっていうことがあり得るかもしれないってことですか?

【 藤森 】   十分あり得ますね。物性が非常に特殊ですから、そういう意味での面白さがあるわけですが、まだ皆さんがあまりそれを知っていない。なんでダイヤモンドはあまり使われていないのか?一番やっぱり大きいのは、加工技術がまだそんなに良くない。加工の自由度がやっぱり少ない。自由度が少ないっていうのはやっぱりなかなか大変ですよ。

   でも今、関西のほうのある工具メーカーさんが、1ミリ以下の単結晶のドリルを作るっていうのをやっているんです。単結晶のドリルですよ。それをレーザーで加工して単結晶のドリルを作るんです、1ミリ以下の物凄く細いやつ。

– 今おっしゃっているのは、もう単結晶ダイヤそのものをドリルの形に加工してしまうというんですね?

【 藤森 】   コーティングではなく無垢のダイヤモンドを削り込んで、例えば0.5ミリのドリルを作ったときにその表面粗さを1ミクロン以下に押さえることが出来るっていうところまでいっている。うちの単結晶の四角い棒を買っていって、それをドリルの形に削り出しちゃうんですよ。レーザーでその加工ができるという技術がある。実物を見るともう本当に驚異ですよ。ですから、ダイヤモンドの加工技術っていうのも、もうちょっといろんな人がちゃんと追求するとかなり良くなる可能性がありますね。エッチングである形のものを作るっていうのも一つの手段だと思いますね。

【 小出 】  ドライエッチングですか?

【 藤森 】  ドライエッチングですね。それで針のようなものも出来ますから。

【 小出 】  ダイヤモンドはドライエッチングが意外に簡単に出来ます。もちろん硬いんだけれども意外にドライエッチというスタンダードな半導体プロセスを使っても削りこめるのが特徴です。

– AFM(原子間力顕微鏡-Atomic Force Microscope)のチップみたいなのをたくさん作るって言うのもこれでやっているわけですね。

【 藤森 】   例えばその電子放出装置なんかのようなことが出来れば、そういうものとして役に立つわけですが、まだそういうアプリケーションが出来ていない。STM(走査型トンネル顕微鏡-Scanning Tunneling Microscope)のチップとしてボロン(ホウ素-boron)ドープのをこういう形に削ってやるというのは、一部商品が出たんですけれども今は、やっているかどうか聞いたことがないですね。ドライエッチングはある程度の自由度がある。ただ値段はある程度しますから、大きいものを作るときどうするかという問題は一つ残っている。

【 小出 】   ダイヤモンドはレーザー光を照射すると熱によって表面近傍がカーボンに変わり、一旦相変態が起こると更に光吸収が進行して行くため、レーザー加工しやすいという特徴があります。ダイヤモンドからカーボンに相変態する現象を利用してレーザー加工する技術は昔から知られていますね。1ミクロンの精度を出す技術は、私には分かりませんが、それは素晴らしい技術と思います。

【 藤森 】   UVレーザーを使うんですけれどもね。レーザーの技術もだんだん良くなっているんで、そういうのが上手く適用することを考えれば。

研究者、技術者の層の厚さが想定外のビジネスチャンスを産む

– でもある意味、ダイヤモンド以上の材料はないということですよね。ですから、そういう方向でいうといつまでもチャレンジングターゲットな材料のままなのか、使いこなして本当にデバイスを作るときが20年、30年後には来るのかと。

【 小出 】   私はGaN系材料を学生時代から研究していたのですが、こんなに工業的に成功するとは思ってもみませんでした。あの当時GaNをやっていて散々叩かれましたが、その状況からここまでメジャーに這い上がるのを見ていますし、SiCの発展も傍らで見ています。だから私は良いものは良いという印象を持っています。例えば半導体レーザーが出来た1970年ごろに、誰もこんなものが何に応用できるのかわからない、殺人光線かと揶揄されました。それがコンパクトディスクや光ディスクが登場した瞬間にバラ色に転換しました。だから、例えばシリコンのパワーデバイスを置き換える目標で進んでいって、置き換えるビジネス分野が出現するあり方もあるでしょうし、また作ったデバイスが思わぬところから市場が出現するという可能性や驚きもあるんですよね。

– そういうのが出てくる可能性が十分にあるということですよね。

【 小出 】  まあ、そういうふうに常に思いたいです。

【 藤森 】  可能性はありますよ。さっきから加工技術が云々と申し上げたのですが、やっぱり技術の材料を使いこなしていくためには進歩のバランスみたいなのが大事で加工技術とか、あるいは素材があるかとか、それでなければダメだというアプリケーションが上手く見つかっていくかといったことが凄く大事なわけなんです。特にエレクトロニクスの世界というのは僕が良く言う言葉でいうと「製品に旬がある」。その旬のときに出さないと製品が日の目を見ないわけです。

    「製品には旬がある。そこに間に合うようにいろんな総合技術がぱっと出来ないといけない。」  

  例えばダイヤモンドのヒートシンクだって1990年ぐらい代から2003年か4年くらいまでは物凄く使われたわけですが、今は全く使われていないわけですね。その時期に物がなければいけない。ダイヤモンドSAWフィルタ(表面弾性波フィルタ-Surface Acoustic Wave filter)なんかは、1998年に出したんだけれど95年に出ていたら全然話が違っていた。世界はもう全く違っていたはずです。多分そのころメインの幹線で引いた2.5ギガの光ファイバのラインに全部使われていたと思うんですけれど、それが出来なかった。3年遅かったから出来なかった。そういう旬がやっぱりどうしてもある。そこに間に合うようにいろんな総合技術がぱっと出来ないといけないんですね。

   ダイヤモンドは残念ながらまだ引き出しが少なくて何かのときに困ったときにじゃあ、これならこうしたらいいんじゃないか、ああしたらいいんじゃないかっていう選択肢が非常に少ない。そこは今からもっと研究者や技術者の層がより厚くなることによってより大きな進歩が出来るんじゃないかというふうには思う。その為にも新しい応用をどんどん見せていかないといけないところがあります。

– 分かりました。でもそういう層の厚さという意味ではやはり日本が一番なんじゃないですか、国としては。

【 藤森 】  多分そうだろうと思いますけれども。

【 小出 】  私もそう思います。学会を見てもこういうエレクトロニクス分野に積極的に挑戦しているのは、日本であるような気がします。

    「研究者や技術者の層では、日本は、間違いなく一番層の厚い国の一つである」
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