WEBマガジン詳細

Webマガジン Vol.3 - Mar., 2013

人工ダイヤモンドの可能性

ダイヤモンドは最高の熱伝導率を持つ物質

– ダイヤモンドとはどういう特性を持った物質なのか、藤森さんからお話しいただければと思います。

【 藤森 】   ご承知のようにダイヤモンドは硬度が一番高い物質ですが、一番大きな問題点は天然にしても超高圧にしても結局、石、粒子という形でしかダイヤモンドを得ることが出来なかった。それが1981年に当時の無機材質研究所(NIMS)で出された気相合成技術により、そういうものとはちょっと違う種類のダイヤモンドが出来たのは、かなり大きなイノベーションです。それがどのように影響してくるかと言いますと「板」とか「膜」といった使い方が出来、いろいろな応用の可能性を一気に出しました。

気相合成術がダイヤモンドの形態に
イノベーション 

   ここには(図:「ダイヤモンドの特性と応用」参照)、代表的なダイヤモンドの物性だけを書いていますが、上のほうは比較的機械的な特性で、摺動摩擦が非常に低いという特性もあります。熱伝導率も他の材料と比べると何倍も大きい。ダイヤモンドは、銅と銀のほぼ5倍の熱伝導率ということが言えるわけです。半導体特性の比較を示しますとこれが代表的なもので、これはパワー系のデバイスの性能仕様でジョンソン(Johnson)という人が作ったもので、今話題のSiCなんかに比べても5倍ぐらい優れていると言われています。

半導体材料特性の指標

   最近、もっと違う特性が面白いぞという話になりつつありまして、例えばその中の一つは、電気化学ポテンシャルのウィンドウが非常に広いという特性です。これを電気分解の電極やセンサに使ったりすると面白い特性が出てくると言われています。元東京大学の藤嶋(昭)先生、(現東京理科大学総長)が発見された、ボロンをドーピングしたダイヤモンドの非常に大きな特徴です。

  それ以外で最近の話で面白いのは、量子コンピューター。夢のデバイスなんですが、これが実現する可能性がありそうだという端緒みたいなところが、少しずつ分かりつつあることです。特に大きいのは、ダイヤモンドを使うと常温で量子コンピューターが動くかもしれないという話で、これが本当だとするとコンピューターに使ってもいいじゃないかという話に結びつきますので滅茶苦茶意味が大きくなる。この話の実用化は30年先、40年先の話だというふうに思っていただいて宜しいかと思います。

   今までに実用化したものはそんなにたくさんはなく、青色に塗ったものは、(図:「ダイヤモンドの特性と応用」参照)ほぼ実用化したものといっても良いものと思います。そういう意味でダイヤモンドというのは、「石」が「板」になったというだけでは、まだ解決できない技術的な課題がたくさん残っていると申し上げても宜しいかと思います。

ダイヤモンドの特性と応用

気相合成法がもたらしたもの

– 人工ダイヤモンドの作り方にも幾つかあり、当社も深くかかわっているわけですが、この辺の作り方の違い、それから1981年に当時の無機材質研で出来たやり方の意味について、藤森さんいかがですか。

【 藤森 】  超高圧法は、有名なGEの発明した1955年にアナウンスがあったもので、5万気圧1500℃くらいが大体作るための良い条件ですが、大体こぶしくらいの大きさのところにダイヤモンドを作るのに3階建てくらいの装置がいるのが普通です。この超高圧装置が秀逸だったのは、わずか5、6年で直ぐに実用化したんです。良く申し上げる話なんですけれども、GEが砥粒を出して、要はそれまで鑿で削っていた墓石が、全部砥石で削れるようになり、ピカピカになったという大変革を起こした。これがなければ、シリコンもデバイスとして使えなかったかもしれないというぐらいの大きなことだったと思っています。

  もう一つ申し上げなければならないのは、この超高圧法で焼結ダイヤっていうのが作られるようになった。これは、金属とダイヤモンドの複合材料なわけで、これもまた物凄く大きいことで、切削工具としていろんな分野で使われるようになった。

   爆発法で作ったダイヤモンド、これは1960年頃に発明されて、これも一気にいろんなところで実用化が進みました。超高圧技術は、まだ他にも成果があってキュービックボロンナイトライド(cBN-立方晶窒化ホウ素)という物質を作った、ということがあります。天然にはない要するに人工物質の超硬材料です。

   これに対して気相合成は81年の発明、一番最初に論文が出たのは76年とありますが、実際に使えるようになったのは81年の無機材研の発表からだと思います。これが1000℃で大体0.1気圧。ですから、超高圧法とは全然違う領域でやるっていうところに面白さがある。よく「超高圧法とか爆発法は平衡状態でダイヤモンドを作るが、気相合成法は非平衡状態で作っているんだ」という言い方、分類の分け方をする。それでも似たようなものがちゃんと作れるというところは、大変面白いところですね。

ダイヤモンドの人工合成技術  

– 日本で始まった気相合成法ですが、それを装置としてプロセスを自動化したりしたのが出来たのがアメリカ。当時のセキテクノトロンがASTeX社のCVD装置を輸入し始めたのが20年前。藤森さんの会社で使われているのも、小出さんのほうでも主にやられているは気相合成法だということですね。

【 小出 】   エレクトロニクス的には半導体デバイス屋さんはこの手法がベストであると考えていて、今のところほぼ100%であると思います。

【 藤森 】   歴史的にいうと1960年くらいから気相合成の技術で、かなりいろいろなことが出来るということが分かっていた。そういう技術で何が出来るだろう、物質の中で何が出来るだろうといろいろと見ていたところはありますね。普通は、何となく「宝石がやりたいから皆やっているんだ」みたいな、いわゆる錬金術の2代目みたいな話が想像されるんですが、そのような感じとは当時の人はかなり違っていたと私は思っています。私は80年頃、あくまで工具として使いたい、特にコーティング工具をなんとかやりたいという気持ちがあって当時住電でやっていたんですが、それが出来てみたら粒や石とは違うものが出来ますねという話になったわけなんです。

【 小出 】   私は93年からダイヤモンド研究に関係していますが、本格的には無機材研がNIMSに変わって統合した後の02年から参加していますので、先達や同僚の方々からの伝聞でしか聞いていません。元々無機材研は様々な物質・材料の結晶合成を主に研究を進める研究所で、当時最初にあったカーボングループから、必然的にカーボンをダイヤモンドにという流れがあってダイヤモンドを高圧合成で創る、粒子という形で小さくても単結晶や多結晶で造る研究がスタートしたと思います。それを広く工業化を目指すために気相合成というのは、自然の流れという印象を持ちます。もちろん、チャレンジングなので大変難しかったと思います。一つにはマイクロ波励起という手法、あるいはホットフィラメントを使う手法の発掘がイノベーションであったと思います。ああいうプラズマ状態や高エネルギー状態を使って創るという技術の発見に至るのは素晴らしいと思います。

  よく私もNIMSでいろんな一般の見学者が来るのでダイヤモンドの説明をするのですが、一般の方々にはこう言って説明しています。「カーボンというのは、結合状態によって、最高に硬くなったり、作り易く柔らかくなったりします。直線定規に例えると、右端が柔らかいカーボン、左端が硬いダイヤとなります。」化学結合的な専門語で言えば、「sp3混成軌道を作るとダイヤで、これが今言う究極の硬いダイヤです。一方、sp2混成軌道を作ると柔らかいカーボンとなります。それが混ざり合ったものを私たちは普通ダイヤモンド状炭素、DLCと呼んでいます。」

  私たちは、この左端のいわゆるsp3混成軌道のダイヤモンドを研究しています。最近は新材料としてグラフェンやナノチューブが登場していますが、基本的にはDLC(ダイヤモンド状炭素-Diamond Like Carbon)とダイヤというカテゴリーで考えると、ダイヤで探究する方が確かに工業的には難しいと思います。

Sp3ダイヤとDLCは何が違うのか

– sp3結合のものとDLCとは何が違うと考えれば良いでしょうか?簡単にいうと。

【 小出 】   やっぱりダイヤモンドは究極の特性、例えば、硬いというのがあります。歪んだ量に対してどれだけのパワー(応力といいますが)、復元力が発揮できるか、その係数のことをヤング率と言います。ダイヤモンドが1200メガパスカルです。要するにちょっと歪んでももの凄い復元力パワーがあります。それを例えば、MEMSという電子機械デバイスに応用すると最高に凄い高速振動と高い周波数分解能を実現できることになります。現在ではシリコンを使って実用十分なMEMSデバイスが出来ていますが、そういう機械的振動、高周波振動に対してどうしても寿命が来てやがては壊れることになります。ところがダイヤモンドは今説明したように硬いから、破壊されにくく長寿命でもあり、しかも高速に動く状況でも長持ちすることが期待できます。あるいはAFM(原子間力顕微鏡-Atomic Force Microscope)のプローブチップに応用し、ナノスケールの表面観測に使ったときでも、非常に安定で機械的振動に対しても長持ちすると思われます。

   機械的性質からいうと硬いという物性はダイヤモンドの方がDLCよりは優れていると思います。同様にアモルファスカーボン、炭素膜、ナノチューブ、グラフェンではできない特性と思います。周波数分解能の高い高周波振動特性を利用して、例えばバイオセンサにも応用できると思います。つまり、生体分子や超分子の表面吸着からわずかな振動数シフトを検出するような高感度なバイオセンサです。材料物性としてヤング率が大きいことや硬いということは、他の炭素材料に無い高感度を達成するセンサが開発できる可能性があります。

   エレクトロニクス的には先ほど言ったように、ダイヤモンドはワイドバンドギャップであること、またブレークダウン電圧(絶縁破壊電圧)が大きいことです。パワーデバイスとして応用したときに絶縁破壊を起こす電圧・電界が他の材料に較べてはるかに大きい。最近話題のSiC(半導体炭化ケイ素)やGaN(半導体窒化ガリウム)を凌駕しています。それが先ほどのジョンソン指数という形で藤森さんが示した図に反映されています。ダイヤモンドは丈夫で安定であることから、例えば、放射線センサにも応用可能であるように、放射線が大量にある環境でも電子デバイスが動くことが期待され、この特性はシリコンデバイスでは不可能と思います。ダイヤモンドが本当に良いかどうかはこれから検証されていくと思いますが、そのような極限環境で安定に動作する電子デバイスや光デバイスが、まさに今必要となっています。私が言いたい点は、DLCや炭素膜では出来ないけれども、ダイヤモンドであれば特別な限定された環境・領域で優れたダイヤモンドの性質が活かせる、驚異的に活かせる場があるということです。

【 藤森 】   何が一番違うかはっきり申し上げるとダイヤモンドはそれだけ単独で使うことはあるんですが、DLCはそれだけを単独のもので使うことはまだないんです。あくまで表面にコーティングしたものを使っているんです。そこは物凄い差です。形態の差があるわけです。DLCは、「今の形態のまましか外に出られない」ということになると使える場所は、今言ったように機械的な場所とか、電気的なことに使うとしてもアモルファスカーボン的な使い方でしかない。それに対してダイヤモンドはやっぱり単独のもので使っていますし、コーティングでも使えますからその差は結構大きい。

   DLCは現在、工業材料としての位置づけを固めましたけど、ここまで来るのに大体30年。そういう意味でいろんな革新に貢献したということは確かだと思います。それは、気相合成技術の凄い大成果だったと言えると思います。いろんな手法でDLCが作れるというような状態になって、しかもいろんな種類のDLCがあるということも凄く大事なことだと思いますね。

– ダイヤモンドには非常に優れた特性があって、良いことがわかっているのにまだまだ普通の人の生活に使われるようなところにまでは来ていない。簡単に言うと作るのが高いし、簡単に量産ができないとかというのがある。ダイヤモンドを材料として使いこなすそのあたりの難しさはどこにあるのでしょうか?

【 小出 】   マイクロ波励起の気相合成法は素晴らしいのですが、出来たエピタキシャル薄膜、それを電子デバイスや光デバイスの半導体デバイスに応用するという意味ではやはり難しいです。つまり点欠陥あるいは結晶欠陥、転位などの欠陥が他の材料に比べて制御しにくいという印象を持ちます。

    しかし、半導体業界的な視点から、GaN(窒化ガリウム)が現在の市場に登場して来たときのこと、あるいはSiC(炭化ケイ素)が、ここまでのレベルに来ているという状況を比較して考えてみたいと思います。GaNはサファイア基板上に成長させることで光デバイス、レーザー、LED(発光ダイオード)としてブレイクしていきましたが、その時の結晶欠陥の密度は、10の8乗から10の10個/1立方センチメートルもの高濃度でした。こんな高濃度な結晶欠陥が存在してもビカビカ光る、しかも結構長い寿命を持つということで皆さん驚いたわけですね。「こんなに欠陥があったらそんなもん出来るはずもないし、ダメだ」という今までの半導体デバイスの常識が覆されたことが一点です。

   それでは、電子デバイスにしたらどうでしょうか? 当時、携帯電話に使うICチップを開発していた企業研究者が、電子デバイスを作製して動作させてみたら、「欠陥があっても意外に特性が良かった」ということが驚きのようでした。つまり、欠陥があっても光デバイスや電子デバイスとして実は使える特性を生み出せる。そう意味ではGaNは欠陥が存在しても良い特性を持つのでホモエピタキシー、つまりGaN単結晶ウェハー上にGaNを作製する方向に開発の方向が行かなかった。究極的には高パワー、長寿命のレーザー分野では、GaNウェハーが必要になったわけですが、この点はGaN分野の特徴的なことと思います。

   SiCはやはりパワーデバイスに応用するために欠陥を減らすという方向に最初から進みましたので、ヘテロエピタキシャル成長技術は消えていったと思います。だからSiCはバルク結晶を作ることが大きな開発テーマで、バルク単結晶ウェハー上に高品質エピ膜を作る形で今ここまで来ていると思います。つまり結晶の高品質化を目指す方向で、研究開発が進んできています。

   ダイヤモンドはどうかといいますとまだ分からないと思います。どの種類の欠陥、どれくらいの欠陥密度が許されるのか、まだ正確にはわからないと思います。実は4インチウェハーの多結晶で表面が現実的にフラットであれば良いのかもしれません。ダメなのか良いのかがまだ分かっていないと思っています。私がキーと思う点はやはりダイヤモンドウェハー開発で、ウェハーは、完璧な無欠陥単結晶のウェハーである必要がないとも思っています。要はサイズで、企業サイドからすると、手持ちのプロセス装置の事情から3インチまたは4インチが必要と思います。デバイスメーカーを奮い立たせるようなデータが出てくるとダイヤモンド業界に参入するプレーヤーは増えてくるというのが私の思うところです。

    「デバイスメーカーを奮い立たせるようなデータが出てくると
  ダイヤモンド業界に参入するプレーヤーは増えてくる」

 

欠陥があっても大きなもの、小さくても欠陥性の良いもの、どちらを目指すべきか

– 我々の開発テーマとも非常に絡む話で、欠陥があってもいいから大きなものが出来れば良いのか、凄い小さいエリアでなるべく制御して、しかも欠陥性が良いのを作って広げていくってことをしないとダメなのか、それはどうなんですか?欠陥性が良いもので2インチ、3インチを作ろうとすると物凄くハードルが高いような気がするんですけれど。

【 小出 】  私自身は、新たな原理のデバイスを作りたいと思っています。まずは小さな基板を使って、ダイヤの特徴や機能を引き出せる新原理デバイスを試作して実証することです。従来のデキストブックとは違うことになります。その為の可能性を追求したいので、そういう意味では小さな基板からの出発で構わないと考えています。ところが工業的にはまったく違う先ほど述べた視点が重要となります。電子デバイスメーカーは、2インチのプロセスラインは、今はほとんど捨ててしまっているので、現状では整備しているのは3インチか4インチラインと思います。推定では3インチウェハーが手に入れば動作チェックをするために、参入してくるはずと思います。

   電子メーカーが使うプロセスラインに流せるような少なくともインチ級ウェハーを供給してあげるようにして、デバイスの動作チェックしてもらうという体制を早く構築出来ないかという点が私の思いです。欠陥があっても良いというふうに判断するのか、やっぱりSiCのように欠陥がない方向に研究を進めるように研究開発ベクトルを向けるべきか、私はまだ答えがないと思っています。

【 藤森 】   だけど、GaNのときも最初はヘテロエピ成長しかやりようがなかったから、基板にSiCとか使ってスタートしていったわけですよね。それと同じで今、小出さんが言われたようにある程度許容してでもスタートしないとせっかくの良い適性が上手く使えない、日の目を見ないで終わってしまうのではないかって危険性すらあります。

   当社が出しているようなもので、モザイクでどこまでいけるか、本当に使ってもらえる物までいけるかということですよね。今の小出さんが言われた論理でいけば、うちのモザイクで十分だという話になるわけなんです。その中にどの程度欠陥があるかと考えると、相当な量の欠陥がまだ残っていますのでそれをどこから退治できるか。

【 小出 】   でも理想は4インチと思います。単結晶、無欠陥、原子状レベルでフラットが理想ですが、配向性基板であっても半導体ウェハーが出来ればそれは良いと考えています。それに行くまでは、藤森さんの開発しているモザイク基板の可能性もあるとみています。

– 要するに3インチ、4インチなければならないと小出さんがおっしゃっているのは、装置がない、プロセス装置が無いという話ですよね。

【 小出 】   それは現実に大きい。会社の研究部隊がチェックできる。

【 藤森 】   何年か前の話で言うと10ミリ角の単結晶を2インチの中に埋め込んだような基板を作ってもやれるかという議論はやったんですよ。それは使えますよと言っているんだけれども現実にその1センチ角しかできない段階では、ま、デバイスの開発はやらないですよね。だから、多少もっと大きいものが出来て、それを見せられればスタート出来るかなって思ってるわけです。2インチが研究開発のラインとすれば、2インチが始まりなんで一応2インチが出来るとダイヤモンドのデバイス元年になる。

    「2インチが研究開発のラインとすれば、2インチが始まりなんで
  一応2インチが出来るとダイヤモンドのデバイス元年になる」
 

ダイヤモンドのデバイス元年は近い?

– それが何年頃に来るんですか?

【 藤森 】   3年後にしたいというのが今の僕の考えですね。3年後にやり始めてもその時点で2インチのウェハーに均一のエピを成長させる装置がないかもしれないっていう心配はあるわけで、それをどうするか?

【 小出 】   ダイヤモンドの場合はやっぱり2インチですね。

– 小出さんはそういうところに行くまで、後何年ぐらいと。

【 小出 】   私はそういう見通しは苦手ですけれども、うかつなことは言えないと思います。確かに近い気がします。

【 藤森 】   いつも言うんですけれど、SiCの場合が91年に1インチが出て、2インチが出たのが95年で、3インチが出たのが98年、4インチが大体2000年か2001年に出ていたんだと思う。ま、6インチまで来るのに大体15年で来たんですけれども。ダイヤモンドは今やっと1インチのところまで来たところですから、2015年で2インチが上手く出来て、このSiCに近い進度で進めばですね。ま、3インチ、4インチっていうのが2020年でやれれば、ある程度の人達が動いては来ると思いますよね。 (現物を提示して)これをあと1.8倍くらいの大きさにすれば良いのだけれども。今、これはプロダクションですから、サンプルではないですから、いつでもプロダクションとして出せます。まだ欠陥の量がかなり多いのでどこまでやるかっていうところは、あるんですけれどもね。

– 逆にもし出来たとしたらどんなに凄いことになるのかって話はどうなのでしょうか?ダイヤモンドで、そういうデバイスが出来ると今のシリコンカーバイドよりも更に小さくなるし、更に電圧も掛けられるし、温度にも耐えられるしという話ですか?

【 藤森 】   今のところ物性で予測した数値というのは、正しい訳ですよ。間違いなくそうなるだろうということなんですけれども。例えば、今のハイブリッド車は2基ラジエーターを持っていて、1基はシリコンのデバイスを65℃っていう温度に制御をしている。だから、重いわけです。で、SiCになると多分その「冷却系が要るか要らないかの境目になる」んじゃないかという話を僕は聞いているんです。本当かどうかは知りません。で、ダイヤモンドになったら「冷却系は絶対いらない」ということになるので、燃費的に考えると非常に良いわけです。それは、これからの燃料電池だろうが、普通のEVだろうが全部に使う技術ですから、そういう意味では非常に波及効果が大きくなる技術なわけです。だけどダイヤモンドのデバイスの効率が良いかということすら、まだ良く分かっていない。で、SiCですら、そのパワーデバイスの効率が本当に良いかどうかというのは、未だきちっとなっていないわけですね。これからの段階ですから、そういうものが本当に実用化する為には、まだ20年とか30年要するだろうとは思うんですが、それでもそれをちゃんと確かめにいくことは、次のフューチャーマテリアルとしては大事なことで、科学技術としては、これからやっていかなくてはいけないことだと思いますね。

新しい原理を産むための発想のジャンプへ

– そのあたり、小出さんはどうですか、今研究されていて、最終的な理想系のこういうものを作る為にやっているんだというようなところからいきますと。

【 小出 】  やはり、エレクトロニクスとしてはパワーデバイスと思います。先ほど述べた、現在SiCの目指しているところを置き換えていくスタイルが一つ。更に性能が良くなると良いですね。ただし、ダイヤモンドはSiCよりもいわゆる半導体のテキストブックにあるような原理がちょっと使いにくい欠点があって、ダイヤモンドの特徴を生かしたFET(電界効果トランジスタ)やトランジスタスイッチデバイスに持っていかなければならないことがもう一つあります。

【 藤森 】   今、小出さんが言われたのは非常に正しい見解だと思います。少なくともダイヤモンドが持っている半導体材料としてのディスアドバンテージの一つは、今のプロセスのやり方でやっていこうとすると、SiO2の絶縁膜が使えないというところに物凄い大きな違いが出てくる。MOS構造が簡単に出来ないということになります。だから「そういうものに頼らない新しいコンセプトをやっぱり作るくらいの気概がないと」と僕はいつも言っているのですが、そこまで行こうと思うと相当、発想のジャンプがいるわけですよね。だからそういうことの出来るぐらい状態まで早く整えないといけない。

– まだその絶縁材は見つかっていないということですね。

【 小出 】   まだ見つかっていないと思います。今学会的には原子層堆積法で作製したアルミナ(Al2O3)が意外に高性能であることが発表されていますが、まだ最終解かどうかは判りません。そういうような材料探索、組み合わせのベストなものは、何かはまだまだわかっていないと思います。

– レイヤーとしてそれこそ化合物半導体でもシリコンでも入れて放熱性を高めようとか、あるいは、矛盾するかもしれないけれど機械的特性を高めようというようなレイヤーとしての使い方のほうが先に来るんじゃないかというのはどうでしょうか?

【 小出 】   MEMSデバイスとシリコンCMOSと組み合わせて、それはUNCD(ウルトラナノ結晶ダイヤモンド-Ultra nanocyrystallaine Diamond)を応用したデバイスが発表されています。この薄膜MEMS的な使い方で、シリコン大規模集積回路デバイスへ融合する形を一所懸命アメリカは進めていますよね。そういう意味では、アメリカは柔軟でむしろダイヤ、ダイヤって、sp3ダイヤにこだわっていない進め方をしていると思います。それが本当に主流になってくるかどうかは、私には分からないです。

【 藤森 】   やっぱり、シリコンそのもので事を解決していく傾向が強いからどうしてもそういうのは、傍流になってしまう傾向があると僕は思いますね。だけどそういうのってMEMSの場合はどういう風に出てくるのかまだ分かりませんよね。でも、ちょっと最近余りウォッチしていないから、間違ったら申し訳ないんだけど、最近あまり進歩がないような感じがするんですよね。前の2000年くらいから2008年くらいまでの進歩に比べるとね。

【 小出 】  そうですね、停止していますね。多くの研究者は立体構造を作るには、DLCのほうが加工しやすいのでまずはDLCでMEMS分野に入っていくと思います。私も同僚とともに今MEMSをやっていますが、私は他との違いを出したいので“単結晶ダイヤモンド”、sp3ダイヤモンドで、MEMSデバイスを作るという方向で研究を進めています。技術的に特徴的な点は犠牲層作製技術にあります。即ち中空構造を作る技術です。私がおもしろいなと思っていた藤森さんがやっていたイオン注入してダイヤモンドから炭素に変換する、炭素に変換すると簡単にウェットエッチングによって除去できる現象を使ってMEMSデバイスを作製しています。なぜ単結晶を使うかと言えば、先ほど述べたヤング率1200メガパスカルという物性値を活かしたいのが理由です。それは一つの可能性としてどこまで行くか試したいと思っています。

次号 予告

ダイヤモンド合成単結晶の応用展開とその未来

  • 単結晶工具でなければできないアプリケーションとは
  • ダイヤモンドは非常にオープンな材料である
  • 単結晶の市場は相当大きいものになるかもしれない
  • 単結晶ダイヤそのもので1ミリ以下のドリルを作る技術がある
  • 研究者、技術者の層の厚さが想定外のビジネスチャンスを産む
ページトップへ戻る