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Webマガジン Vol.2 - Jan., 2013

技術用語解説 測定における不確かさって何? <前編>

はじめに 【Page 1 of 6】

計測器・測定器の評価を行う場合、最初にスペックシート等でその機器の持つ精度(Accuracy)や誤差(Error)および再現性(Repeatability)の仕様を確認すると思います。  また、思うような測定結果が得られない場合、特に測定結果が予想していた結果と比べて大きく異なる場合も同様に、スペックシート等からこれらパラメーターを確認し、『機器の故障ではないか』考える事があるかと思います。

  これらパラメーターは機器そのものの性能を評価する場合は有効になりますが、一方で例えばRFパワー(電力)を測定する場合は、単純にパラメーターのみで評価を行う事はできません。 なぜなら、通常RFパワーを測定する場合は、その測定対象に適したパワーメーターとパワーセンサーの組み合わせで実施されます。この時それぞれが持つ精度や誤差は必ずしも同じ方向(ベクトル)へは作用せず、ある程度のバラつきを持つからです。  この場合、測定結果に対する評価は“精度/誤差”は使用せず、“不確かさ(Uncertainty)”のパラメーターを使用します。  測定結果の“質”を共通の尺度で評価するために不確かさが定義されています。

  不確かさを知ることで、測定結果そのものの“質”(信頼性)の評価を行ったりまた、トレーサビリティの観点からも使用されています。

  今回はこの“不確かさ”に関して、当社で取り扱っております米国Boonton社のCW/ピークパワーセンサーおよびパワーメーターを用いて、前編と後編にわけて説明したいと思います。

不確かさの要因って何があるの? 【Page 2 of 6】

不確かさを求める為には、結果の質に影響する要素を特定する必要があります。 次に挙げられる要素が測定における不確かさの要因となります。 これら全てを組み合せる事で、“その測定における不確かさ”を求める事が出来ます。

①機器本体による要素
②校正器レベルによる要素
③校正器不整合の標準不確かさ
④測定源不整合の標準不確かさ
⑤センサーの直線性補正による要素
⑥センサー温度係数による要素
⑦センサーのノイズによる要素
⑧センサーのゼロドリフト(オフセットのズレ)による要素
⑨センサー校正係数(Cal Factor)による要素<

   これら個々のバラつき要素から値を求め、それらの結果の合成から測定における不確かさを求める必要があります。 求められたこれらの値が、すべて悪い方向に作用した場合、測定における不確かさは『最も悪い場合』の結果として、以下の式で計算されます。

  U1からU Nは、前述している①から⑨のそれぞれの要素です。

  『最も悪い場合』の不確かさは、単純にそれぞれの要素が持つ値を足し合わせる事で求める事ができますが、実際にはそれぞれの値はそれぞれ独立している為、必ずしも全ての値が最も悪い条件に作用する可能性は少ないです。 従って、ベクトルの要素を考慮した“合成標準不確かさ”は、それぞれの値を求め、以下の【バジェットシート】と呼ばれる表に記入し、その要素に応じた確率分布に則った手法(除数)を用いて計算されます。

   確率分布の種類には、代表的に以下のものがあります。

   求められた標準不確かさをそれぞれ二乗し、その結果の合計値の平方根を取った結果が“合成標準不確かさ”です。 合成標準不確かさは統計的には約68%の信頼度しかないため、通常は95%の信頼度を持った“拡張不確かさ”を求めます。 拡張不確かさは簡易的には、“合成標準不確かさ”に『包括係数k=2』を掛ける事で求めます。

  • 注意
    測定の不確かさの計算は様々な要素を考慮する必要がある事から非常に複雑なため、今回はより容易で合理的な計算にする為に、計算式を簡略化しています。 また、個々に対する不確かさの計算において必要に応じて、以下のようにパーセントとdBの単位変換が必要になります。

それぞれの標準不確かさに関して 1~3 【Page 3 of 6】

前述の通り、単純にRFパワーを測定する場合でも、様々な要素の不確かさを考える必要があります。以下にそれぞれの要素の不確かさに関して説明を致します。

1. 機器の標準不確かさ
   これは測定器そのものが潜在的に持つバラつきで、例えば内部構成部品の温度ドリフトや内部増幅およびデジタル化において発生します。 内部校正部品の温度ドリフトは、電源投入直前と時間経過後との間に発生するもので、Booton社製品においては、AutoCal機能(自動校正機能)を用いる事で、回路類内の絶対的誤差を非常に小さくします。Boonton社パワーメーター4530シリーズでの機器では、標準不確かさは0.2%となります。

2. 校正器レベルの標準不確かさ
   これはパワーセンサーを校正する校正器の出力レベルのバラつきです。Boonton社パワーメーター4530シリーズは校正器を付属していますが、この校正器のバラつき要素は出力レベル毎で以下の通り異なります。
50MHz 校正器レベルの標準不確かさ;(環境温度0℃~20℃において)

  校正器として、外部校正器を用いた場合は以下の通りになります。
Boonton社製2530 1GHz 外部校正器レベルの標準不確かさ;

   校正器のレベルの標準不確かさは、使用されるセンサーの校正方法に依存します。AutoCalが実行された場合、上記にある測定パワーレベルにおける校正器の標準不確かさを使用します。 外部校正であるFixedCalでセンサーを校正した場合は、レベルが一定である為に、AutoCalよりも標準不確かさは大きくなりえます。

3. 校正器不整合の標準不確かさ
   これは校正器の出力とセンサーの終端間でのインピーダンス違いによる不整合による標準不確かさです。次の方程式を用いて、校正周波数における校正器(DCAL)とセンサ(DSNSR)との反射係数から計算されます:

  校正器の反射係数は、校正器の仕様による:

  センサーの反射係数であるDSNSRは周波数に依存します。

それぞれの標準不確かさに関して 4~5 【Page 4 of 6】

4. 測定源不整合の標準不確かさ

   これは測定源出力とセンサー終端間でのインピーダンス違いによる不整合による標準不確かさです。次式を用いて、測定周波数における測定源(DSRCE)とセンサ(DSNSR)との反射係数から計算されます:

  測定源反射係数はRF測定対象物の特性です。測定源のSWRのみが既知の場合、反射係数は次の方程式を用いて測定源のSWRから算出されます。

センサーの反射係数であるDSNSRは周波数に依存します。

  ほとんどの測定においてこれが不確かさを大きくする最大の要因となる為、測定源とセンサーとの間を可能な限り最良の整合を確保する必要があります。図1の図は、測定源とセンサー両方のSWRの既知の値に基づいたものです。

図1 Booton社98501900L – POWER SENSOR MANUAL より

5. センサーの直線性補正の標準不確かさ
  これは“線形性誤差”とも呼ばれます。高いパワーレベルや周波数ではセンサーの応答は非直線性である為、線形性誤差が生じます。 これはBoonton社製4530シリーズのAutoCal機能を使用する事でこの標準不確かさを非常に小さくする事ができます。

それぞれの標準不確かさに関して 6~9 【Page 5 of 6】

6. センサー温度係数の標準不確かさ

   これはAutoCalが実施された時の温度からセンサーの温度が大きく変化した時、発生する誤差です。Boonton社製パワーメーターでは、この変化を自動的に検出し、使用者に再度AutoCalを行う事を促す機能を持っています。

本例における温度による標準不確かさは次の通りです:

7. センサーのノイズの標準不確かさ
  パルス測定のノイズの一因となるものは、読み値を表示する際の平均化サンプル数(アベレージング)に依存します。CWセンサーや変調モードにおけるピークセンサーを用いた連続測定では、測定の積分時間(フィルタリング)に依存します。 一般に、フィルタリングまたはアベレージングを増やす事は、測定ノイズを縮小します。 センサーのノイズは、通常絶対値のパワーレベルとして表現されます。ノイズによる標準不確かさは、測定される信号パワーとノイズとの比に依存します。次式はノイズによる標準不確かさの計算に使用されます。

8. センサーのゼロドリフト(オフセットのズレ)の標準不確かさ
   これは零点値(オフセット値)の時間的ドリフトです。フィルタリングまたはアベレージングではこれは取り除けません。この標準不確かさは、次の公式も用いて算出されます。

9. センサー校正係数(Cal Factor)の標準不確かさ
  センサー周波数の校正係数(Cal Factors)は、センサーの周波数応答を正確にする為に使用されます。これは各周波数において測定されるパワーと実際に印加されたパワーの比より算出されています。 Boonton社製パワーメーターでは、このパラメーターは事前にメーカーで算出されセンサー内部に保存されます。 センサーのCal Factorによる標準不確かさは、この周波数校正を実行する間に発生したバラつきであり各周波数では異なります。

不確かさとは・・・まとめ 【Page 6 of 6】

以上のように、単に“誤差”と言ってもそれには様々な要素が関連するため、測定結果の評価にはベクトルの考えを用いた“不確かさ”を考える必要がある事がわかったかと思います。 “不確かさ”は各要素のバラつき具合も考慮したものですので、結果の“質”(信頼性)を求めることができます。

  次回の後編では、実例を用いて計算を行い、『最も悪い場合の不確かさ』、『合成標準不確かさ』及び『拡張不確かさ』の違いに関して説明したいと思います。

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