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Webマガジン Vol.2 - Jan., 2013

屋内測位とナビゲーション応用

はじめに

  1964年に上映された映画007ゴールドフィンガーの中で、ジェームスボンドの運転する車のコンソールに地図が投影されていて敵の居場所が表示される場面があった。それは実現された技術ではなかったが、車で運転中に位置がわかったらどんなに便利だろうと思い興味を持った。現在ではGPSを使ったカーナビが当たり前になり、技術の進歩は予想を超えて望みは満たされたが、NTTドコモから電気通信大学へ転勤したときに再びそのような技術に取り組みたくなった。

電気通信大学 正門

  時は2000年でカーナビ全盛であった。一方、屋内測位はまだであったが歩行者のナビゲーションに適用できればさぞ便利だろうと思い、研究テーマの1つとした。当時そのような研究例は殆どなく、どこから手をつけたら良いかは全く分からなかった。全世界をカバーするためにGPS衛星なら20基余りで済むが、屋内の場合世界中の建物に測位装置を設置せねばならず、コストが天文学的数字になってしまう。また電波は壁面などの反射や遮蔽で乱され正確な測位は難しい。誰もが最初は電波受信強度から距離を推定しようと試みるが、うまくいかなかった。

研究の方法

  屋内測位実現のアプローチの方法は2つあった。GPSを屋内でも使えるようにするか、広域にわたって屋内に展開しても低コストなシステムを実現することである。

  最初はBluetoothで距離を測る装置がBluesoft社(現AeroScout社)から市販されているのを見つけて使ってみた。100 mの距離でも誤差1mという優れものでそれなりの精度で測位ができた(図1)。原理は詳しく説明されていなかったが、往復の通信で複数の周波数の振幅・位相伝達特性を測定しフーリエ変換によりインパルス応答を求める方法と想像された。しかし残念ながら生産停止になり、さらに1回の距離測定に0.3秒程度かかり多人数での利用シーンには向かないため、この方向での検討は断念した。

図1 Bluetoothを用いた屋内位置検出  

  次に見つけたのがPointMAN(現在は生産停止)という歩行者用の自律航法装置で、図2のように地磁気センサで方向を、歩数計で移動距離を求めて緯度・経度方向距離成分を累積し位置の変化を求めている。これならばインフラが要らないのでコスト面で非常に有望と思った。ただし相対位置しかわからないので他の手段で絶対位置を知らせる必要がある。また自律航法は誤差が累積するのでときどき位置を較正せねばならない。その方法はいろいろありそうなので、以後これらを組み合わせたハイブリッド測位方式に研究の狙いを定めた。

  絶対位置を知らせる方式をここでは「基準点測位」と呼ぶことにする。屋内測位の実用化を果たすために両測位方式の高精度化が課題となった。なかでも自律測位の精度が高ければ位置較正の頻度が減るのでシステムの低コスト化には非常に有効である。

図2 自律航法の原理  

  基準点測位では絶対位置情報を伝える手段として電波か光が用いられる。電波方式では、GPS, WiFi, Bluetooth, ZigBee、微弱電波などが、光方式では可視光、赤外通信が適用される。光方式はピンポイントで通信することができるため位置精度が高い。しかし通信は見通しが条件なため、端末をポケットなどから出して位置情報を受信せねばならない不便さがあり、電波方式を選択した。一方、電波方式は図3に示すように受信可能距離が位置誤差となり、精度が悪いという問題があった。

図3 位置情報を電波で受信  

基準点測位の高精度化

  3辺測量の方法で、3箇所に基準点を設けて推定距離から端末の位置を設ければ位置は正確だがコスト高になってしまう。そこで制約条件として装置は1個とした。測位原理を図4に示す。通路を歩行者が通過する際の位置検出をモデルとしている。2素子のアンテナに3 dBハイブリッドを介して給電すると、切り替え形2ビームアンテナが形成できる。最も簡単なバトラーマトリクスである。2ビームは天井から通路に対して横方向に放射し、周期的にビームを切り替える。歩行者の所持する受信機は位置情報を含む信号を受信し、その強度変化を記録する。図4(a)に示すように進行方向に沿って受信強度最大の場所が、送信機を含む進行方向に直角な面上に相当する。2ビームの受信レベル差より歩行者の送信機直下から左または右方向のずれを求める(図4(b))。この方式により歩行中の一瞬ではあるが位置が正確に求められる。この瞬間に自律航法の位置を較正する。2.4GHz帯での実験の結果、測位誤差は 1m以内であった。ただし、受信アンテナが身体に密着すると受信アンテナが無指向性でなくなり誤差要因になるため、実用性能を確かめるには更なる実験が必要である。

図4 受信レベルの変化から位置を推定
           (a)進行方向   

  本装置の大きさは7cm角程度であり、天井のスポット照明器具などに装着することが可能で設置性は良い。

図4 受信レベルの変化から位置を推定
           (b)進行方向と直角の方向   

自律測位の高精度化

  屋内では測位装置近傍にある鉄系の金属によりしばしば地磁気の方向が乱される。一方、歩幅の変化は距離誤差の原因になる。しかし歩幅をいちいち測ることができれば推定距離精度は向上する。そこで靴にセンサを装着し、3軸加速度センサとジャイロにより水平方向加速度を求め2重積分した。着地した瞬間に速度を0に較正して誤差を抑えた。一歩ずつ歩幅を求め累積した実験の結果、歩数計測方式よりも測距精度は向上した。しかし加速度出力値が思いのほかnoisyであり誤差要因となった。そこで次に超音波距離センサを用いた。図5(a)に示すように左右の足にそれぞれ送信機、受信機を装着して両靴の間隔を連続測定した結果を図5(b)に示す。一部とぎれる箇所があるものの測定値は正確であり、いろいろな歩幅で測定しても距離誤差は0.8%以下と非常に正確な値を示した。装置を装着した靴はファッション性に問題があり改善の工夫をする必要があるが、自律測位の課題の1つが解決されたと思う。

図5 超音波センサによる歩行距離推定
           (a)超音波センサ

  方位誤差の低減はジャイロの性能にかかっている。設置された測位基準点間で行われる自律測位において方位推定はジャイロだけでも可能なことが望ましい。光ファイバジャイロなら十分な性能を有しているがコストと大きさの点で実用化には難があり、MEMSジャイロが使えれば実用的である。最近精度が向上しつつあるので期待される。

図5 超音波センサによる歩行距離推定
           (b)左右の足の間隔

最近の技術と応用の動向

  研究面ではハイブリッド測位方式は今後も有力な屋内測位技術候補として検討が進んで行くであろう。一方、実用技術としては既にいくつかの方式が実績を上げている。

  WiFiは最近街中でどこに行っても複数の信号を受信できるくらい普及している。そのIDと位置をテーブル化し測位に利用するPlaceEngineというサービスがある。測位インフラがすでにできているという点で大きなアドバンテージがある。

  IMES(Indoor Messaging System)は屋内に疑似GPS衛星を設置し、送信信号に位置情報を載せて送信する方式である。携帯電話端末には既にGPS受信機が搭載されているため、新たな専用端末を要しない点にアドバンテージがある。二子玉川ライズ・ショッピングセンターなどあちこちで実証実験が進められている。IMESをハイブリッド測位の基準点に利用するのは有効な考えである。

  最近屋内測位のみをテーマとした国際シンポジウムが開催されるなど、屋内測位の研究と応用への関心が高まっている。応用面では、歩行者ナビゲーションだけでなく、ショッピングセンターにおける購買者の動線検出、位置情報をもとにしたスタンプラリーなどのゲームなどが提案され実験が行われている。将来の需要予測は難しいが、携帯電話のような大きなインフラになる可能性もある。電波は必須の利用技術なので、無線通信や測定機業界では注目しておくべき分野である。

  ハイブリッド方式では1mオーダーの位置精度を目指しているが、更に高精度・高信頼化を測れば目の不自由な方の杖代わりにもなるであろう。更なる研究の意義は大きい。

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